学生・教員リレーエッセイ

2012.07.26  <教員 T>

 授業を終えて研究室に戻ろうとすると、先生!と声をかけられた。学生のKさんだ。「いまグリムを読んでます。なんとか自力で読めるようになりました。あいかわらず辞書を引きまくってですけど。」と教師冥利に尽きるような言葉をかけてくれた。
 グリムとは例の『グリム童話』のことで、彼女はドイツ語の原文で読む稽古を熱心に続けているとのこと。大学生になって初めて習う外国語を「ものにする」ことは確かに難しい。その要因は様々であるけれど特に社会的な要請というものが壁になっている。「使える英語」だけが必要とされる息苦しい社会にあって、その他の外国語学習のあり方は見向きもされないのが実情だ。
 Kさんが、質問があるんですが、と言ってノートを見せてくれた。原文にすごい書き込みで格闘している感じだ。勉強熱心?それもあろうけれど、私が感じたのは何故か「自由」ということだ。原文があって、自分が対峙する。その一心な態度は「社会の要請」とはかけ離れたところで自分で何かをつかみ取ろうとしている若者の核心だ。
 教師冥利とは要は若い人から元気を貰えることなのだな、と思いながら、「確かになんでここにdochという単語が使われてるんだろうな、う?ん...」と首を傾げる私。ほらそうでしょ、先生!とKさんの誇らし気な気配を感じるのでした。