学生・教員リレーエッセイ

2021.02.01  <島村 玲雄>

 「地域公共人材クラス(ALC)の授業紹介」
                                 
 2021年になっても新型コロナウイルスの脅威は過ぎることなく、緊急事態宣言が発令されている只中にありますが、いかがお過ごしでしょうか。コロナ禍以前と同じ生活様式に戻ることは難しく、新しい生活様式になっていくのかもしれませんが、一日も早い終息を願うばかりです。
 さて法学部では、アドバンスト・リーダー・コース(ALC)という、1年次から進路を志向した少人数制の授業を実施しているクラスがあります。私はそのうち、地域公共人材クラスを担当しています。(当クラスは特別選抜型入試制度か、入学後のコース変更で所属することができます。)ここで少しばかり、どのような授業を行っているのか紹介したいと思います。
 地域公共人材クラスの学生は、基礎演習Ⅰ・Ⅱのほかに「地域公共演習Ⅰ・Ⅱ」という演習形式の授業が必修となっており、様々な課題を抱える地域について特色ある授業を行っています。ひとえに「地域」と言っても、日本の山間部の過疎地域や離島地域、地方都市、大都市、さらには海外など幅広く、扱う問題は法律問題や経済問題、社会問題と多岐に渡っています。2019年度に私が担当した地域公共演習Ⅱでは、4~5人のグループに分かれて議論を行う、グループディスカッションを行いました。学生はテキストとして専門書や論文を読み、報告者は担当箇所について作成したレジュメをもとに、お互いに意見を出し合い活発に議論を行います。
 この授業では、実際に地域の課題に取り組んでいる外部講師を招いて、豊富な経験から実践的な知見を活かした授業も行います。2019年度は、「地域おこし協力隊」として活躍した小林和彦さんを講師として、熊本での地域おこしの経験から、その課題や人材発掘の重要性をお話ししていただきました。ちょうど授業日と同時期に熊本市の花畑広場でクリスマスマーケット熊本が開催されていて、その主催者や出展企業に小林さんとともに活動されていた方が多く参加されていました。小林さんは全国を飛び回り活動されているそうですが、活動が周囲の人々に引き継がれていることを、イベントを通じて気付くことができました。

写真1 写真は、外部講師の小林さんと話を聞く学生(2019年12月)
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 現在は新型コロナの影響で実施が難しいかもしれませんが、以前には大学を出てフィールドワークとして合志市の障がい者福祉施設に見学に行きました。この事業所では様々な仕事を請け負って障がいを持つ方々が作業している施設で、仕事を通じて入所者の社会参加を支援しています。実は、この事業所は熊本大学の生協ショップで販売している五高珈琲の焙煎・販売をしている、熊本大学と関係ある福祉施設です。(本学にお越しの際は、ぜひともお買い求めいただいて、美味しいコーヒーをご賞味ください。)
 学生たちは、速く正確に作業する入所者の手際に驚くと同時に、なぜこの事業所の賃金水準が全国的にも高く、多くの仕事を任されているのかを理解したようでした。こうした実際の現場から学ぶフィールドワークの授業は法学系では多くはないので、地域公共人材クラスに所属する学生には貴重な経験を通じて多角的に学んでもらいたいと思います。


写真2 ラベル貼り作業を見学する学生(2019年11月)
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 地域公共人材クラスでは、3年生になると「地域公共プロジェクト」という授業を受講することになります。この授業は2020年よりスタートした授業で、大学3年生から各人が「地域」に関わる問題をテーマとして、大学院生さながらに先行研究サーベイや調査を行い、その成果として研究報告を行います。学生は、自分が関心を持つテーマを設定し、どのように研究すればいいのか、どういう点を明らかにすればいいのかを考え、実際に研究計画を考え、報告します。研究テーマは、空き家問題や過疎地域の公共交通、引きこもり支援、さらには中山間地でのジビエ産業の可能性など、地域経済から社会保障まで多岐にわたって実際の地域が抱える問題について多く取り上げていました。 

 この授業では課題設定から先行研究サーベイ、研究報告まで行うことで、学生のみなさん自身が「地域」の問題解決の主体となって、どのような問題があり、その原因は何か、どのような解決方法があるのか、解決策を社会に発信していくためのスキルを身につけることを目的としています。2020年度はコロナの影響もあり遠隔授業で行わざるを得ませんでしたが、そんな状況を逆手に取り、学生はPowerPointで作成した報告資料を、ZOOMの共有機能を使ってのプレゼンテーションを何度も行いました。その成果は、最終報告会に参加された他の先生方から、「学部生ではレベルの高い報告に驚いた」という言葉をいただいたことで示すことができたと思います。

写真3 地域公共プロジェクトの学生Nさんの報告より
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 このように法学部の地域公共人材クラスでは、「地域」に焦点を当てた特色ある授業を行い、法学だけでなく政治学や行政学、財政学や経済地理学など、さまざまな分野の教員による授業を受けることができます。このほかには、地方自治体や地元企業でのインターンシップも積極的に推奨しています。地域公共人材クラスはスタートして間もないですが、在籍する学生は必ずしも公務員を志望する学生ばかりではありませんし、地方公務員を養成するクラスでもありません。しかし、すべての学生は公務員や民間企業を問わず、「地域」で貢献したいという志を持っています。そのため、地域公共人材クラスを担当する教員の私たちは、それぞれの研究領域を超えて、学生のみなさんが社会に出て、どのような形でも「地域」に貢献する人材に必要な能力や資質を備えるような教育を行っていきたいと考えています。
 熊本大学法学部は法学だけでなく、政治学や経済学も学ぶことができることが特徴です。加えて、地域公共人材クラスでは、より専門的、より実践的な形で学ぶことができます。法学部の地域公共人材クラスで学びたい、という意欲のある学生のみなさんの入学を心よりお待ちしております。

参照:Youtube熊本大学『フィロソフィアの扉』第6回「法学部」