シンポジウム・セミナー

第1回 実践社会科学研究会(2022年12月26日開催)

第1回実践社会科学研究会を下記のように開催しました。

日時:2022年12月26日(木)

報告者:岡田行雄(熊本大学大学院人文社会科学研究部(法)教授)

テーマ:研究の実践をどのように活字業績化すべきか?-- 元受刑者に対する支援活動を通して考える

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 2022年12月26日、第1回実践社会科学研究会「研究の実践をどのように活字業績化すべきか?‐元受刑者に対する支援活動を通して考える」が、ハイブリッド形式で開催されました。

 本研究会では、まず、岡田教授から、以下4点の内容を含む報告があり、その後、参加者から質疑応答がありました。

 1.岡田教授自身のこれまでの研究について

 2.実証研究を実践に活かす活動

 3.元受刑者に対する支援活動

 4.実践活動を活字業績化するために乗り越える必要がある課題

 まず、「1」について、岡田教授が研究課題として、少年法分野における理論や判例の蓄積が少なく、理論研究になじみにくいテーマを選び、その成果を著作『少年司法における科学主義』(日本評論社、2012年)としてまとめたが、その出発点は、少年時に犯した事件と最初の受刑後の再犯についての研究であったことを紹介されました。また研究の問題意識として、実証研究に、刑事法の理念のような法的価値をどう当てはめるべきなのか、をもっていたことを紹介されました。

 次に、「2」として、「離脱研究」からのアプローチを紹介されます。「離脱研究」とは、犯罪を繰り返していた者が、犯罪キャリアから離脱した場合に、その離脱に、どのような要素が相関しているのかを明らかにしようとする研究とされます。

 この離脱研究の成果を実践に活かそうとして2020年1月から、熊本家庭裁判所の調停委員、弁護士などからなる「熊本少年友の会」の付添人(少年法10条)として活動を始め、そこで得られた知見として、少年たちの過去の凄まじい虐待などの被害があり、付添人としての限界を知り、痛烈な反省と学びを得たこと、そして家族に恵まれず、行き場のない少年たちにとっての居場所として、自立準備ホームなどの社会資源を開拓する必要性について紹介されました。

 このような中、「3」として2022年5月に、研究の出発点となる重大事件を犯した長期受刑者との面会を実現し、支援活動を始めたこと、そして、それを通じて、当該受刑者が受刑前と受刑中だけでなく満期釈放された後も様々な被害を受けていたことを紹介されました。

 最後に、「4」として、以上の実践活動を、活字業績化するために乗り越える必要がある課題として、以下、3つのことを指摘されました。

 第1に、刑務所における刑期を終え、釈放された元受刑者に対して、精神保健福祉法に基づく措置入院が度々行われている実態が窺われ、事実上の保安処分として機能しているのではないかという問題性を指摘されました。

 第2に、派生する研究テーマとして、刑務所等における性犯罪者の再犯防止対策の再検討が必要なのではないかという疑問を、元受刑者の支援等を通じて得た旨、紹介されました。

 第3に、実践活動を活字化する場合の課題として、個別事例の研究から、どのように一般的な命題を論証できるのか? また個別事例の研究を公表することと事例に出てくる当事者・関係者のプライバシー保護とをどのように両立させるべきなのか等の問題提起を行いました。

 質疑応答においては、実証研究から得られる知見を一般化するために他の研究領域からの知恵を借りる方向性、その性質上、社会に公表しにくいテーマをどのように扱うべきなのか、研究公表後に考え得る、当事者に対する否定的な影響、措置入院の要件である「自傷他害のおそれ」がどう判断されるべきか、行政処分である措置入院に対する不服申し立てや行政訴訟の可能性、他国における類似制度との比較・検討、研究対象者と研究者との距離感などについて、盛んな議論がありました。

(岡本洋一)