シンポジウム・セミナー

第2回実践社会科学研究会(2023年3月1日開催)

第2回実践社会科学研究会を下記のように開催しました。

日時:2022年3月1日(水)14時40分~16時10分
場所:熊本大学文法棟2階研究会室1(Zoomミーティングも併用)
報告者:森大輔(熊本大学大学院人文社会科学研究部法学系准教授)
テーマ:「マスク着用や飲食店の新型コロナ対策に対する人々の意識調査」

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まず森准教授により「マスク着用や飲食店の新型コロナ対策に対する人々の意識調査」という論題のもと、報告が実施されました。報告の概要は以下⑴⑵の通りとなります。

(1) 背景と問題意識

 新型コロナウィルス(Covid-19)流行の中で、国家による規範形成の試みと実際の社会規範形成との間に一定の齟齬が生じていることは、しばしば観察されてきました。たとえば厚生労働省の(コロナ対策としての)マスク着用に関するガイドラインは、マスク着用が必要ではない場合を提示している(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00001.html)にもかかわらず、日本の人々の多くはそうした場合でもマスクを着用し続けており、ここからも、コロナ対策をめぐって国家のガイドラインが必ずしも社会規範化されていないという現実が見えてきます。

 そこで本報告では、様々なコロナ対策の中でも①マスクの着用に関する人々の意識(他人のマスク着用、場所、マスクの効果に対する回答者の考えはそれぞれマスク着用にどの程度影響しているか)と②飲食店のコロナ対策に関する人々の意識(テーブルの仕切りの設置、キャッスレス決済の導入、入口での検温、入口での消毒液の設置、席における社会的距離の確保といった飲食店の対策はどの程度重要視されているか)に焦点を定め、①②について森准教授により行われたアンケート調査(2022年12月27日実施)の結果が分析されることで、上に述べた齟齬の実態を考察することが目指されました。

(2) マスクの着用と飲食店のコロナ対策をめぐる人々の意識の分析

 森准教授によるアンケート調査では、クラウドソーシングで募集した20~69歳の調査対象1082人に対してシナリオ実験の手法を用いたサーベイ実験が実施され(https://crowdsourcing.yahoo.co.jp/request/detail/3589081812)、本報告では、そこで行われた上記①②に関するアンケートの結果に対し、統計学的分析が進められました。そしてこの分析の結果、①(マスク着用をめぐる人々の意識)については、マスク着用の意識に対して、他者のマスク着用が有意な主効果を持つこと、場所も有意な主効果を持つ(公園より道が、道よりショッピングセンターの方がマスク着用への影響が大きい)こと、マスクの効果に対する回答者の考えも一定の影響を及ぼすことが、②(飲食店のコロナ対策に関する人々の意識)については、限界支払意思額(Marginal Willingness To Pay:MWTP)の算定上、席における社会的距離の確保・テーブルの仕切りの設置のMWTPが最も高いクラスにあること(60円台)、キャッスレス決済の導入・入口での消毒液の設置のMWTPが次に高いクラスにあること(50円台)、入口での検温のMWTPが最も低いクラスにあること(30円台)が示され、これら2点を通じてコロナ対策に関する人々の意識が明らかにされました。さらに本報告では、①について、上記アンケート調査結果によれば公園より道の方がマスク着用への影響が大きいといえる一方、厚労省のガイドライン(前掲)では公園と道が区別されずに「屋外」として一律に基準が提示されている点が指摘されるなど、コロナ対策をめぐって、国家による規範形成の試みと実際の社会規範の間に生じている齟齬が具体的な形で浮き彫りにされました。

 以上の分析結果は、(調査対象が限定されているゆえに直ちには一般化できないという留保が付されたものの)コロナ対策をめぐる人々の意識を研究するための重要な基礎的データを提供するものといえます。そのうえで、上記の調査結果の分析を一層深めることなどが今後の課題として示され、報告は終了しました。

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報告後の質疑応答においては、上記の調査結果とその含意(応用可能性)、研究手法、コロナ対策をめぐる人々の規範意識の内容・形成過程の内実、コロナに関する国家の規範的統制(法的統制のみならずナッジといった非法的統制を含む)の評価などについて活発な議論が交わされました。

(文責 太田寿明)

*この研究会の成果である森大輔「マスク着用と飲食店の新型コロナ対策に関する調査 ー サーベイ実験と離散選択実験を用いて」熊本法学158号(2023年7月)は下からご覧になれます。

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