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ミニシンポジウム「非行少年が持つ被害体験を踏まえた立ち直りの道を探る」を開催しました(2023年5月26日開催)

 ミニシンポジウム「非行少年が持つ被害体験を踏まえた立ち直りの道を探る」が、熊本大学法学部研究教育振興会の主催で、2023年5月26日12時55分から14時25分の時間帯に熊本大学法学部A3教室で開催されました。

 このミニシンポジウムでは、岡田が編者を務めた『非行少年の被害に向き合おう』(現代人文社、2023年刊)に原稿を寄せてくださった執筆者のうち、知名健太郎定信さん(福岡県弁護士会)、安西敦さん(京都弁護士会)、山下祈恵さん(NPOトナリビト代表)、長橋孝典さん(岡山少年院法務教官)、廣田邦義さん(臨床心理士、元家裁調査官)の5人に原稿では書き足りなかったことなどを自由にお話ししてもらいました。

 まず、知名さんは、付添人や弁護人として、非行少年の就労支援などに関わったご経験から、被害が積み重ねられた非行少年は往々にして再非行に走ることがある。そこでその少年を見捨てるか否かが少年非行問題の専門家となるか否かの分かれ道。弁護士だから必ずしも非行少年事件の専門家とは限らない。知名さん自身が再非行に走った少年の支援に頑張れるのも、広島の「ばっちゃん」など、知名さんを助けてくれる人々があってのことだとまとめられました。

 次に、安西さんは、少年事件に関わる中で、自分も非行少年と同じような被害に遭い続けて、誰からも支援を受けられなければ、きっと非行に走っただろう。犯罪者だとラベルを貼って、犯罪者であればどんな目に遭っても良いと考えるのは間違っている。被害が積み重ねられた非行少年に何の支援もせず、処罰して切り捨てる社会の在り方こそ問われなければならないとまとめられました。

 NPOで居場所のない少年たちを支援している山下さんは、非行少年が悪いと言い切れるケースはゼロで、非行に走るときに本人に考える余裕がないケースばかり。一度、非行に走る少年たちと同じ当事者の目線で事件を見て欲しい。当事者でなければわからないことはたくさんあると、隠されている被害の積み重ねから、非行少年が自らを破壊しようとしていることに想像力を持ってほしいとまとめられました。

 少年院で法務教官として非行少年に関わる長橋さんは、少年院にいる非行少年たちには、多くの場合で父親がおらず、家族も非行や犯罪に関わっている、学校教育からはじき出されるなどの特徴があり、手っ取り早くお金を稼げる土木作業などに従事し、社会で生きていくための教養が欠けている。そこで、非行少年に高卒認定試験などを通して、教養を身に付けてもらうこと、即ち「犯罪は教養で絶つ」ことが重要だとまとめられました。

 最後に、40年近く、ほとんど転勤をせずに同じ家庭裁判所で非行少年と間近に接してきた廣田さんは、裁判所を定年退職した後に、家庭裁判所が非行少年に対していかに大きな権限を持っているのかを実感している。家裁調査官、保護観察官、保護司、学校関係者など、非行少年に関わる専門家が集まって個別の非行少年に次に何をすれば良いのかを考えるケース会を実践することが今まで以上に求められているとまとめられました。

 以上のお話を受けて、参加している学生達から、仕事のやりがいを感じるときはどんな時かなどの質問があり、充実した質疑応答もなされました。

 このミニシンポジウムが、参加された方々の間で、非行少年には被害が積み重ねられているという事実とそれを踏まえた少年非行対策の必要性の共有につながること、そして、連携協定を結んでいる人吉農芸学院にとっても意義あるものとなることを期待しています。

(岡田行雄)

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