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シンポジウム「死体遺棄事件最高裁判決をめぐって」(2023年10月28日実施)

 熊本大学法学部主催シンポジウム「死体遺棄事件最高裁判決をめぐって」が、2023年10月28日(土)14時~17時に、文法棟A1教室にて開催されました。本シンポジウムでは、ベトナム人技能実習生である女性が孤立出産した結果死産であった子の遺体を段ボール箱に入れて自宅に置いたことについて、死体遺棄事件として一審・二審が有罪判決を出したものに対し、無罪判決を下した最高裁判決を対象として、本事件の主任弁護士であった石黒大貴弁護士による基調講演と、法学部所属教員による刑事法上の具体的諸問題に関する検討がなされました。

 まず、基調講演として、石黒大貴弁護士(熊本中央法律事務所)より、本事件の概要および弁護活動に関する報告がありました。そこでは、本事件の受任時から最高裁判決を得るまでの経緯について、法律論に留まらず、外国人技能実習生制度のはらむ問題点に触れつつ、具体的なお話がありました。特に、検察によって遺棄行為であるとされた被告人の行為について、実際の現場写真を提示しながら当時の被告人本人の考えを説明するなど、本事件に直接関わったからこその貴重なお話を聞くことができました。また、多数の学部学生が参加していたことから、学生時代の経験と法曹を目指した理由、ロースクール在籍中の悩み、弁護士登録後の取り組むべき法律問題の選定理由などについてもお話いただくなど、非常に内容の濃い講演でした。
 シンポジウム後半では、本学部所属の刑事法分野の教員による刑法・刑事訴訟法・刑事政策の視点からの問題点の指摘がなされました。まず、澁谷洋平准教授(刑法担当)からは、刑法190条死体遺棄罪の成立要件や保護法益など、解釈論上の諸問題に関する説明ののち、本判決の各裁判所の判断に対する批判的検討および本件の射程と今後の死体遺棄罪の解釈に関する展望が提示されました。また、内藤大海教授(刑事訴訟法担当)からは、本件における被告人の作為(子の遺体を段ボール箱に入れたこと)と不作為(葬祭義務がありながら遺体を箱にいれたまま放置した/葬祭行為を行わなかったこと)のいずれを検察官が問うたのか不明であるとして、本件における刑事訴訟法上の問題点としての訴因の不特定と逸脱認定について、検討がなされました。その後、岡田行雄教授(刑事政策担当)によって、刑事政策の観点から従来の死体遺棄罪の解釈を踏まえ、その予防に必要な対策および刑法上の解釈に関する問題意識が提示されました。

 最後の質疑応答では学部学生や他大学の研究者からの質問が出されるなど、4名のパネリストと130名の参加者を迎えた本シンポジウムは、盛会のうちに終了しました。

* 当日のシンポジウムの様子は『熊本法学』第159号に掲載されています。

(濵田絵美)

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