エルペルクの研究活動として、シンポジウム「災害時の民事法上の課題について―被災者支援の在り方を中心に―」が、20人ほどの学外の方を含む約140人の参加者と多数の報道機関を迎えて開催されました(2024年6月15日、文法棟A1教室)。
シンポジウム前半は、エルペルク・センター長の大日方信春氏の開会挨拶と司会・コーディネーターの濵田絵美氏の趣旨説明を経て、3名の弁護士による報告がありました。まず、岡本正氏(第一東京弁護士会)には、「大規模災害とリーガル・ニーズ~法政策をすすめる災害復興法学のすすめ~」という論題で、災害復興法学の視点から、被災者のリーガル・ニーズに応じた災害法制の整備とそれによる社会の「法的強靭性(リーガル・レリジエンス)」の向上が必要であることを論じていただき、また熊本地震におけるリーガル・ニーズがいかなるものだったのかを具体的に検討していただきました。次に、渡辺裕介氏(熊本県弁護士会)には、「二重ローン問題と自然災害債務整理ガイドライン」という論題のもと、被災者にとって深刻な負担となる、旧住宅・新住宅の二重ローンに関する法的問題を熊本地震での取り組みに即して分析していただいた上で、こうした問題において自然災害債務整理ガイドラインがいかなる効果を発揮し、いかなる課題を生じさせているのかを具体的に検討していただきました。最後に、今田健太郎氏(広島弁護士会)には、「土砂災害と工作物責任・相隣関係~西日本豪雨等での経験を踏まえて~」という論題のもと、豪雨災害の土砂崩れに伴い生ずる工作物責任や相隣関係の諸問題に対し、民法・災害救助法といった法制度や、災害ADR(裁判外紛争解決手続)がそれぞれいかなる法的処方を示しているのか、そうした法的処方のあり方がいかなる災害法制をめぐる法的課題を示しているのかを、西日本豪雨(広島)の災害ADR解決事例の分析などを踏まえて具体的に検討していただきました。
シンポジウム後半は、濵田氏により民事法学の観点から諸報告に関する論点が整理、提示され、それらへの応答を含むパネリストの意見交換が行われました。また、フロアーとの質疑応答では、本学学生や学外の方からさまざまな質問が寄せられ、それらへの応答を通じて、活発なディスカッションが進められました。
本シンポジウムでは、熊本地震を含む日本各地の災害においてこれまで生じてきた、そして災害一般が今後生じさせうる法実践上の課題に対する理解が深められたと同時に、そうした諸問題が民事法のいかなる理論的問題に結びついているのかが探究されました。非常に充実した議論のもと、本シンポジウムは大盛況のうちに終了いたしました。
太田寿明