当日のシンポジウムはこちらからご覧になれます(YouTube)
シンポジウム「TSMCと半導体は熊本・日本を救うか?~産業論と地域経済の視点から~」が、学外の方を含む約80人の参加者のもと開催されました(2024年10月26日、文法棟A1教室)。
シンポジウム前半は、エルペルク・センター長の大日方信春氏の開会挨拶と司会・コーディネーターの島村玲雄氏の趣旨説明を経て、4名のパネリストによる報告がありました。まず、岡野秀之氏(九州経済調査協会常務理事)には「シリコンアイランド九州の未来」という論題のもと、半導体メーカーが数多く集積する「シリコンアイランド」としての九州が半導体産業とその関連企業をさらに発展させる大きなポテンシャルを持つことを示していただき、TSMC日本工場(JASM: Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)立地を契機として、今後の熊本に求められる課題を考察していただきました。次に、吉岡英美氏(本学法学部教授)には「台湾・韓国の半導体産業、その強さの解剖」という論題のもと、世界の半導体産業市場をそれぞれリードしてきた台湾(TSMC)と韓国(Samsung)の企業がどのように今日の地位を得るに至ったのかを、その歴史的背景も含めて、経済政策論の見地から分析していただきました。さらに、鹿嶋洋氏(熊本大学文学部教授、熊本大学大学院社会文化教育部長)には「半導体産業の⽴地・集積と地域の課題」という論題のもと、半導体産業の立地と集積がその地域にいかなる影響を与えてきたのか、TSMC(JASM)が熊本にいかなる影響を与えうるのかを、三重県亀山市へのシャープ立地による地域の変化を比較の事例として分析していただく中で、立地によるメリットとリスク(交通渋滞、地価高騰、災害などのリスク)の双方を検討すべきこと、産業の多角化によるリスク分散が必要であることなどを指摘していただきました。最後に、⾦⼦勝氏(淑徳⼤学⼤学院客員教授、慶應義塾⼤学名誉教授)には「近未来の産業戦略について考える〜川下の産業衰退と⼈材育成」という論題のもと、日本のITの川下産業がなぜ衰退したのかを分析していただく中で、TSMC立地に伴い熊本で産業発展が成功するためには、水平分業と協業をどのように実施するか、最先端技術を開発する基盤をどのように用意するかといった課題に取り組まれるべきこと、そうした成功のためには大学教育が極めて重要な役割を担うことを指摘していただきました。
シンポジウム後半においては、パネリスト間の意見交換を通じて、TSMC誘致に伴って熊本(大学)がなさねばならない課題や日本の産業政策の在り方などの論点が討論され、またフロアーとの質疑応答を通じて活発なディスカッションが進められました。本シンポジウムは、半導体技術をめぐる社会経済問題、および、熊本においてTSMC立地を成功させるためにはどのような取り組みが必要であるかについての理解が深まる中で、大盛況のうちに終了いたしました。
(太田寿明)