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第6回実践社会科学研究会を開催しました(2025年10月15日開催)

第6回実践社会科学研究会を開催しました。
日 時:2025年10月15日(水)17:00~18:30
場 所:熊本大学法文学部等2階共用会議室
報告者:太田寿明氏(本学准教授)
報告題:徳法理学研究の現状と課題――近時のアリストテレス主義刑法理論の分析――

 法学・政治学・経済学といった社会科学の複数の学問領域の視点から多様な社会問題を複合的に検討する「実践社会科学」の確立を目指す本研究会の第6回目として,本学で法哲学を研究・教育している太田寿明准教授に報告していただきました。

 報告では,徳の涵養を法学の任務とみる「徳法理学」が実定法理論として徐々に広がりをみせている状況に鑑み,これと刑法理論との接合可能性が検討されました。具体的には,徳法理学の原初とみられるアリストテレスの思慮(フロネシス)論にまで遡源した上で,義務論,帰結主義(功利主義)に対する第3の道として徳法理学に基づく諸理論を展開するヒゲンス(K. Huigens)の刑事責任論が紹介され,犯罪の典型である意図的行為の構造理解を深化させ行為者の目的への熟慮を追跡することで,実践的推論の性質を評価するという「責任判断において徳の理論が要請する情報」が提供されるという構想と,かかる構想に対する有力な反論が示されました。その上で,法には徳への考慮が内在しており,責任概念にも同じことがいえるのではないかという論評がなされました。

 以上の報告を受け,参加者からは,徳や実践理性の概念がいかなる定義や内容を与えられているのか,現実の裁判や司法手続といった実践の場で徳法理学の意義や真価がいかに発揮されうるかをはじめ,様々な質疑と応答が交わされました。行為や責任とはいかなるものであるか,それらの概念と徳がいかなる形で結びつけられるべきであり,いかなる結果を生むと展望されるかなど,法哲学と法理論や法実践との架橋を視野に収める壮大な研究であると同時に,徳法理学による刑事責任論という新たな地平を切り拓こうとする学際的研究であり,実践社会科学に関わる多様な学問分野に対して多くの示唆や学びが提供されました。

(澁谷 洋平)