
現代のリバタリアンの理論が地域の問題にいかなる意味を持つかという視点から、イリヤ・ソミンの「足による投票」の理論について報告がされました。「足による投票」とは、自分が住んでいる地域の政策に不満がある市民は、選挙で改革を求めるのではなく、より望ましい政策を行う別の地域へ移ったり、私的セクターの中で選択したりすることによって、改善を求める、という理論です。この理論は、現代社会では、「政治的無知」が広く見られ(それどころか「政治的無知」であること自体が合理的でありさえする)という理解に基づいています。そして、それを解決するのは、投票箱による投票でも、熟議デモクラシーでもなく、「足による投票」だとします。というのも、「足による投票」のほうが、情報の獲得とその合理的利用への強いインセンティブを与えるからです。さらに、「足による投票」は政治的分権化と強く結びつくとともに、地方自治を正当化します。つまり、情報は分散的であり、それを活用するうえで地方政府は優れている一方で、そのような分散された情報は中央政府の設計では把握できません。また、地方政府の徹底が「足による投票」を促し、中央政府のデモクラシーの安定に優れているとされます。
この報告は、自治体を人々が積極的に選択するという、新たなデモクラシーと地方自治の可能性を示しました。同時に、人口減少社会とそれに伴う大きな制度改革の渦中にある地方自治について、そのような時代だからこそ、地方自治の固有の意義や正当性とは何かを、丁寧に考え直す必要があることも示しています。
また、この議論は多くの分野にまたがるため、質疑応答では、憲法学や租税法学のみならず、経済学など多様な分野から多様な性格の質問がなされ、非常に活発な意見交換が行われました。
(中嶋直木)