学生・教員リレーエッセイ

2016.03.31  <池田 愛>

 気がつくと、私が熊本大学に赴任して、早くも1年が経とうとしています。実家は山口、大学時代は京都在住だった私にとって、熊大への就職は縁も所縁もない土地に一人ということになり、当初はちゃんとやっていけるのか不安がつきませんでした(熊大に通う学生さんの中には、他府県出身の方もたくさんいらっしゃるので、同じような不安をもって入学された方もいるのではないでしょうか)。特に私は熊大が初めての赴任校ということもあって、最初の頃は今までいた大学との違いに戸惑うばかりでした。その中で最も驚いたことといえば、熊大ではなぜか深夜0時に謎のチャイムが鳴るということです。初めて研究室で一人、そのチャイムを聞いたときは、驚きすぎて思わず廊下に飛び出し、誰かいないか確認してしまったほどでした(幸いなことに、そんな時間に廊下を徘徊している人はいなかったので、私の無様な失態は誰にも見られずに済みました)。
 もちろん、熊大に来て驚いたことはそれだけではありません。少しだけ真面目な方向で述べますと、とりわけ印象深いこととして2つあります。1つは、新年生合宿研修【通称:阿蘇合宿】なるものの存在です。これは、新年生がこれからの熊大生活を楽しく送れるように、友達作りや教員との親睦を深めるために5月に行われる学校行事です。私が大学生の時は、そのようなイベントはありませんでしたので、このような楽しげなイベントがあるというだけでも驚きなのですが、さらにこのイベントは任意参加にもかかわらず、新年生のほとんどの方が参加されているということで、二重に驚きました。実際に参加してイベントの盛り上がり様を見ますと、学生さんにとっては友達や楽しい思い出がたくさん出来て良いだろうなあという感想を抱きました。それと同時に、当時熊大に来たばかりで法学部の先生方がどのような方々なのか分からなかった自分にとっては、先生方の人柄を垣間見ることのできた大変良い機会でもありました(中でも、班対抗のクイズ大会でいじられている某先生を見て、大変親しみのある先生で良いなと思ったことをよく覚えています)。
 もう1つは、校舎の構造に関することで、授業で使う建物の内部に教員の研究室があるということです。私が在学していた大学では、教員の研究室は、学部の講義で使う教室のある建物とは別の離れた建物内にある上に、教員の研究室があるフロアにはオートロックが付いていたので、学生が教員の許可なく気軽に訪ねていける雰囲気ではありませんでした。ところが熊大では、前記の通り講義に使う教室と教員の研究室が同じ建物内にあり、入口にオートロック等もありません。そのため、ある日ふらっと学生さんが授業の質問に来るということもごく普通の光景です。最初はそのフランクさに驚きましたが、学生と教員の間にあまり垣根がないことは素敵なことだと感じています。
 そんなこんなで数々の大学間ギャップに驚かされながら始まった熊大生活ですが、1年経った今では0時のチャイムを聞かなければなんとなく物足りないと思うくらいには、熊大にも馴染んできました。大変有り難いことですが、熊大法学部には、こんな短期間でも当初の不安を消し去ってしまうくらいの居心地の良さがあります。それは、新しく来た人を暖かく迎え入れ親切にしてくださる熊大の先生方の人柄であったり、木々が生い茂る自然豊かで穏やかな校内の雰囲気のおかげであったりします。そして、この居心地の良さのおかげで、この1年間、元いた大学や土地が恋しくなるようなホームシックに陥ることもなく、研究しやすい環境に身を置くことができました。
 まだまだ熊大の全容を知り得たわけではありませんが、私も他の先生方のように、学生の皆さんが、熊大において居心地良い生活を送りながら勉学に励むための一助となれるよう尽力したいと思います。