国際交流
(2025年度)韓国でのインタビューおよび資料収集活動 

内琥珀さん(法学部法学科4年)

1.実施した活動内容

 2024年12月3日、韓国の尹大統領は突如として非常戒厳を宣布した。国民は大統領の暴挙に強く反発し、大統領と与党の支持率は政権発足後の最低値を記録した。しかし実際に大統領弾劾の手続きが開始されると、与党と保守派を中心に激しい反対運動が起きた。その結果として、暴徒が裁判所を襲撃する「ソウル西部地裁襲撃事件」が起きると、襲撃犯の過半数を占めた「保守的な若年男性」への注目が集まった。

 本事業の目的は、この「韓国の保守的な若年男性」について、現地でのインタビュー調査や資料収集を実施することで、卒業研究を作成・内容拡充を進めることであった。目的達成のため、12月26日~27日の期間ソウルで、28日~29日の期間全州で活動を実施した。

 26日は、私の研究テーマの対象である「保守的な若年男性」にインタビューを実施するため、若年層を中心とした保守団体のデモ活動の現場を訪れた(写真1, 2)。デモ終了後、二人の男子学生(匿名希望)から研究利用の許可を頂いたうえで、①保守系運動に参加するようになった理由②尹大統領が弾劾された後も活動を続ける理由③軍隊での生活やSNSが自身の考えに与えた影響等について、インタビューを実施できた。27日は、保守団体「自由大学」を率いるメンバーの一人であるイ・サヤ氏から、同様に研究利用の許可を頂いたうえでインタビューを実施した。また、26日と27日ともに空いた時間を活用し、国会図書館で研究資料を収集した。28日はソウルから全州に移動したのち、進歩派の若年男性三人に対し、若年男性の保守化現象についてどのように考えるかインタビューを実施できた。さらに29日には、私が以前留学していた全北大学の中央図書館で研究資料を収集するとともに、同大学国際協力部のイム・ヒョンソプ先生に、昨今の若年男性の保守化現象についてどのように考えるかインタビューを実施できた。

内琥珀さん01
(写真1)保守団体のデモ活動の様子

内琥珀さん02
(写真2)「不正選挙殲滅」と書かれた
のぼり旗を掲げている

2.得られた結果

 26日から27日にかけてソウルで実施したインタビュー調査では、保守団体のデモに参加する若年男性からお話を伺うことができた。彼らから共通して感じられたのは、①SNSの影響力と②強い国防意識であった。

 まず、匿名希望の男子学生二人からは、「元々政治に関心はなかった」というお話を聞かされた。ところが、戒厳事態後にSNSで「進歩派野党の暴挙」と「北朝鮮共産勢力の脅威」について知り、この真実を多くの人に知ってもらうためにデモに参加するようになったという。暴挙と脅威の例を尋ねると、「野党による一方的な政府官僚弾劾」と「北朝鮮勢力による選挙介入」を挙げた。「後者は韓国の選挙管理委員会が否定している」と指摘すると、インスタグラムでニュースを流すアカウントの投稿を見せてくれた。普段から大手メディアよりSNSで情報を得ているとのことだった。

 次に、保守系の学生団体を率いるイ・サヤ氏(写真3)にも、運動に参加しはじめたきっかけを尋ねた。彼は、文在寅政権時代の男性への逆差別的な政策から進歩派への不満を感じていたものの、尹大統領が就任してからは政治について特に気にしていなかったという。しかし戒厳事態後に、なぜ大統領は戒厳を宣布したのか調べていくうちに、保守系のYouTuberの動画にたどり着いたそうだ。そこで戒厳宣布以前の「野党の立法独裁」や「中国人スパイの存在」について知ったという。私は彼に対して、兵役制度の廃止について尋ねてみた。逆差別と北朝鮮の両方に不安を感じている彼の場合、男性差別的な兵役についてどう考えているか気になったためである。すると、廃止ではなくむしろ女性に予備訓練をさせるべきだとの答えがあり、国防意識の強さを感じた。

 以上のインタビュー結果から、韓国の若年男性がSNSで大統領擁護論に触れ、戒厳正当化に向かう流れが確認できた。大統領擁護論に感化されやすくなる原因としては、逆差別への不満や兵役を通じた国防意識の高さが考えられる。

 一方、進歩派の学生三人にもお話を聞くことができた。まず戒厳事態を擁護する投稿をSNSで見たことがあるか尋ねたところ、三人とも見たことがあると答えた。次にその投稿を信じるか聞いたところ、「他の情報と照らし合わせるとフェイクだとわかる」、「(かつて戒厳令下で民主化運動が弾圧された)光州市民として、尹大統領にどんな理由があったとしても戒厳は許せない」といった意見が聞かれた。三人が暮らす全羅道地域は歴史的に進歩派が強いことを踏まえると、個々人の党派性も戒厳の賛否に大きな影響を与えているようである。また、全北大学のイム・ヒョンソプ先生からは、「民主主義の後退や不正選挙論は、アメリカをはじめとする世界的な現象」だとするお話もお聞きでき、研究の際に他国の状況も調べるきっかけとなった。

 さらに、インタビューの他にも、国会図書館(写真3)と全北大学中央図書館(写真4)での資料収集も実施した。日本では閲覧できない資料にアクセスでき、韓国語文献を一気に拡充することができた。

内琥珀さん03
(写真3)イ・サヤ氏(右)

内琥珀さん04
(写真4)国会図書館

内琥珀さん05
(写真5)全北大学中央図書館

3.今後の課題

 本事業で得た結果をどのように卒業研究に反映させるかが今後の課題となる。今回得たデータは、多くの人にお話を伺うことより、限られた人に詳しくお話を伺うことを重視した。その結果、サンプル数の少ない質重視のデータとなったため、その信頼性が問題となりうる。そこで卒業研究では、自身の仮説をまず客観的な資料によって立証し、その補強材料として今回得たデータを活用しようと考えている。

 また反省点として、事業計画書では全北大学政治外交学部の教授との研究相談を予定していたが、日程が合わずお会いすることが叶わなかった。その原因として、大学の講義と卒業研究の提出時期の関係で、年末の時期に渡航せざるをえなくなったことが挙げられる。渡航計画と先方へのご連絡は早めに行い、受講中の講義の先生方としっかり相談したうえで渡航すべきだったと考える。